「運動」の「効果」に対する学術的報告

運動の効果に対する学術的報告

「運動」の「効果」に対する学術的報告についてご紹介します。

学術的報告が集まれば、いわゆる「エビデンス」が高くなります。

例えば、症例数が多かったり、いくつかの施設のデータをまとめたり、既に発表されている論文を集めて再検討したりするにつれ、「エビデンス」は高くなっていきます。

 

ここでは、

  1. 運動と学業
  2. 運動とうつ病
  3. 運動と認知能力

についてご紹介します。

1. 運動と学業

まずは、運動と学業についてです。

実は、運動を1回しただけでも、認知機能が向上する、という報告があります。

 

●Nandaらは、2013年に、医学生を対象とし、エアロバイクを30分間、60~70%の予備心拍数で運動したところ、記憶力、推理力、計画力が向上し、作業時間が短縮したことを報告しています(Nanda B et al. J Clin Diag Res, 2013)。たった1回の運動でも、これだけの効果があったことは、驚きです。

 

●Hillmanらは、2009年に、10歳前後の男女を対象とし、最大心拍数の60%(中強度に相当)で歩行を20分間することにより、反応の速さと正確性、言葉の読み書きの正確性が向上したことを報告しています(Hillman CH et al. Neuroscience, 2009)。

2. 運動とうつ病

うつ病の治療には、通常、SSRIという薬が使われます。

SSRIは、Selective Serotonin Reuptake Inhibitorsの略で、日本語では「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」といいます。

これは、神経どうしの連絡部であるシナプスというところで、神経伝導物質として使用されている「セロトニン」が再取り込みされるのを阻害することにより、シナプス部でのセロトニン濃度を高めることにより、セリトニンの作用を増強し、うつ病を改善する薬です。

 

しかし、実は「運動」がこのSSRIに匹敵する効果があることが報告されています。

この分野の大家であるBlumenthalは、SMILE(Standard Medical Intervention and Long term Exercise)という名前の臨床研究で、「運動がうつ病を改善する」という趣旨の論文を複数報告しています。

 

●1999年の報告では、軽度から中程度のうつ病患者を対象とし、70~85%の予備心拍数でウォーキングやジョギングを1回30分、週に3回、16週間施行し、SSRIの効果と同等の効果であったことを報告しています(Blumenthal JA, et al. Arch Intern Med, 1999)。

 

●2007年には、うつ病患者に対し、自主的に運動をする群と、指導下に運動をする群、SSRIを使用した群、何もしなかった群の4群に分け、最大心拍数の70~85%でウォーキングやジョギングを1回30分、週に3回、16週間施行しました。

結果、寛解というかなり良い状態になった確率が、それぞれ、40%、45%、47%、31%であり、運動した群は、何もしなかった群より有意に寛解する確率が高く、SSRI群と差がなかったことを報告しています(Blumenthal JA, et al. Psychosom Med, 2007)。

 

●運動を継続することにより、再びうつ病になってしまう確率が低下することも報告されています(Babyak MA, Blumenthal JA, et al. Psychosom Med, 2000; Hoffman BM, Babyak MA, Blumenthal JA, et al. Psychosom Med, 2011)。

 

●もう一人の大家であるTrivediとDunnは、うつ病に対する運動の量や頻度について報告しています。

2005年の報告では、20~45歳のうつ病と診断された患者80名を、①7.0 kcal/ kg/ weekで週に3回運動する群、②7.0 kcal/ kg/ weekで週に5回運動する群、③17.5 kcal/ kg/ weekで週に3回運動する群、④17.5 kcal/ kg/ week週に5回運動する群、⑤運動をしない群の5群にわけて調査をしました。結果、17.5 kcal/ kg/ weekで運動をした2つの群③④は、うつ病の症状が47%改善し、有意さがありました。これに対し、7.0 kcal/ kg/ weekで運動をした2つの群①②は30%の改善で、運動をしない群⑤の29%と差がありませんでした。

なお、週3回と週5回でうつ病の症状の改善に差はありませんでした(Dunn AL. et al. Am J Prev Med, 2005.)。

 

これらの学術報告に基づき、イギリスでは、うつ病患者に対し「運動」が推奨されています。

3. 運動と認知能力

運動を長く続ける能力である「全身持久力」は、健康に大きく関わることが報告されています。

具体的には、全身持久力が高いと、がん、心臓病、脳血管障害での死亡率が低下することが報告されています(Blair SN et al. JAMA, 1989; Blair SN et al. JAMA, 1995)。

 

運動が全身持久力を高めることは容易に想像がつきますが、最近の研究では、運動は「認知」能力も高めることが判明してきました。

「認知」とは、わかりやすく言うと、「認識」のことです。高齢になり、「認知」能力がかなり低下してしまうと、いわゆる「認知症」となってしまいます。

そして、現在、「認知症」になる人が増えており、重大な問題となっています。「認知症」にならないためにも、運動を継続することが重要です。

 

☆有酸素運動能力と認知能力

 ●Netzらは、65~85歳の高齢者の有酸素運動能力を調べ、低い有酸素運動能力の群と、中程度の有酸素運動能力の群に分け、注意力・空間認識・記憶能力・実行機能についての認知能力を測定し比較してみました。

その結果、中程度の有酸素能力の群は、低い有酸素能力群と比較し、有意に全ての認知能力が高かったことを報告しました(Netz Y at al. Int Psychogeriat, 2011)。

この報告からわかることは、「有酸素運動能力が高いと、その時点での認知能力が高い」ということです。

 

●Barnesらは、55歳以上の年齢の有酸素能力を調べ、そして6年後の認知能力を調べました。その結果、有酸素能力を計測した時点では、認知能力に差はありませんでしたが、6年後には、低い有酸素能力の群は、高い有酸素能力の群と比較し、有意に認知能力が低下していました(Barnes DE et al. J Am Geriatr Soc, 2003.)。

この報告からわかることは、「有酸素能力が低い場合には将来的に加齢により認知能力が低下しやすく、有酸素能力が高い場合には将来的に加齢による認知機能の低下をある程度抑えることができる」、ということです。

 

●Smithらは、メタ解析という解析方法で1966年から2009年の過去の報告から、信頼性の高い29の報告、2049人のデータについて新たに解析を行いました。

その結果、有酸素運動をすることにより、注意力・情報処理速度・実行機能・記憶能力などの認知機能が向上することができことがわかりました(Smith PJ et al. Psychosomatic Med, 2010.)。なお、運動については、70%最大酸素摂取量の強度で、週3日を推奨しています。

この報告は、メタ解析であるため、エビデンスが一段階高くなります。

つまり、より信頼できる、ということです。その結果が、「有酸素運動をすることにより認知能力が向上する」、ということですから、これは大きな意味を持ちます。

 

☆有酸素運動と脳の大きさ

年齢を重なるにつれ、脳は萎縮し、小さくなっていくことが知られています。

特に脳のなかでも、前頭前野と側頭葉(海馬が存在)が萎縮していくことが知られています。

前頭前野は認知、側頭葉は記憶に大きく関係するため、高齢になるとこれらが萎縮するために、認知能力や記憶能力が低下すると考えられています。

ちなみに、海馬は高齢になると1年に1~2%づつ小さくなるといわれています。

 

●ここで非常に重要な報告についてご紹介します。

Colcombeらは、60~79歳の高齢者を対象に、60~70%予備心拍数の強度で、1回60分、週3日の有酸素運動をする群と、ストレッチなど有酸素運動をしない群にわけ、6か月後に脳のMRIを撮影し、大きさを比較しました。

その結果、有酸素運動をした群は、有意に脳が大きくなりました。

しかし、有酸素運動をしなかった群には変化はありませんでした(Colcombe SJ et al. J Gerontol Med Sci, 2006.)。

この報告からわかることは、「継続的に有酸素運動をすることにより、高齢者では脳は大きくなる」、ということです。

通常、高齢になると年々脳は小さくなりますが、有酸素運動をすると、むしろ大きくすることが可能だ、ということですから驚きです。

 

●もう1つ、脳の大きさに関する報告があります。

Ericksonらは、55~80歳の120人を対象に、60~70%予備心拍数の強度で、1回40分、週3日の有酸素運動(ウォーキング)をする群と、ストレッチなど有酸素運動をしない群にわけ、開始時、6か月、12か月の時点でMRIを撮影し、尾状核、視床、海馬の大きさを測定しました。

結果、有酸素運動をしなかった群は、海馬が経時的に小さくなり、12か月で1.4%小さくなりました。

対して、有酸素運動をした群は、海馬が経時的に大きくなり、12か月で2%大きくなりました。そして、これらには有意差がありました。

つまり、有酸素運動をするかどうかだけで、1年で3.4%もの大きさの変化が海馬に出てしまうということです。

ちなみに、尾状核、視床には変化はありませんでした(Erickson KI et al. PNAS, 2011.)。

この報告からわかることは、「高齢になると海馬は通常、年々小さくなりますが、有酸素運動をすることにより、小さくなることを防ぐだけでなく、むしろ大きくすることが可能である」、ということです。

 

☆運動と認知症

運動は脳を大きくし、認知能力を向上する、とお伝えしました。

それでは、認知能力が病的に低下した状態である「認知症」との関連はどうでしょうか。

 

●Laurinは、65歳以上の認知症になっていない高齢者を対象にして、運動をしない、低運動レベル、中運動レベル、高運動レベルの4つの群が、5年後にアルツハイマー型認知症になるリスクについて検討しました。

結果は、中運動レベルは、アルツハイマー型認知症になるリスクは有意に33%減少し、高運動レベルでは有意に50%減少しました(Laurin et al. Arch Neurol, 2001.)。

なお、中運動レベルは、歩行程度の強度で週3日以上、高運動レベルは、歩行よりも高い強度で週3日以上の運動です。

この報告からわかることは、「現時点で認知症になっていない高齢者でも、将来的に認知症になってしまう可能性があるが、有酸素運動をすることで認知症になるリスクを低下させることができる」、ということです。

 

●Abbottは、71歳から93歳の高齢男性を対象に、1日の歩く距離と認知症のリスクを比較しました。

その結果、1日1.6km以下しか歩かない人は、3.2km以上歩く人と比べて、1.75倍、有意に認知症になることがわかりませした。

また、1日0.4km以下しか歩かない場合は、3.2km以上歩く人と比べて、1.93倍、有意に認知症になりました(Abbott RD et al. JAMA, 2004.)。 

この報告からわかることは、「ある程度、強度の高い有酸素運動をした方が、認知症になりづらい」、ということです。

 

これらの結果をまとめたものが下の表になります。