「適切」な運動

運動強度と心拍数

それではいよいよメインである「どのような運動が脳や身体に良いのか?」についてです。

このことを考える上で重要なキーワードがあります。

それが、

  1. 「運動強度」
  2. 「心拍数」

です。

運動強度

「運動」は、一般に3つの運動強度にわけられます。

3つとは、「低強度」、「中強度」、「高強度」です。

文字通り、「低強度」は楽な運動で、中→高となるに従い、負担が多い運動になります。

運動強度の例として、「走る」こととの関係をあげてみます。

「走る」といっても、いろいろな「走り方」があります。

  • かなりゆっくりした「走り方」で「歩く」ことに等しいようであれば、「ウォーキング」
  • それより少し速い「走り方」は、「ジョギング」
  • さらに速い「走り方」は、「ランニング」
  • もっと速く全速力の「走り方」は、「ダッシュ」

となります。

 

つまり、運動強度でいうと、

  • 「ウォーキング」は、低強度
  • 「ジョギング」は、中強度
  • 「ランニング」と「ダッシュ」は高強度

となります。

心拍数

もう1つの重要な目安が、心拍数です。

以前は心拍数を測ることは、手間がかかりました。

ジムのランニングマシンなどであれば、心拍数を測定することはできます。

しかし、これだと、ジムでトレーニングをしている間だけしか心拍数を測定することはできません。

 

ジム以外でも心拍数を測定する方法として、「胸に装置がついたベルトを巻き、この装置が心拍を測定し、腕に付けた装置に情報を転送することにより心拍数を測定するタイプの心拍数計」が開発、販売され、一般でも使えるようになりました。

 

これはこれで大きな進歩ですが、やはりちょっと手間がかかります。

そして近年は、「腕に付けるだけで心拍数を測定できる心拍数計」が発売されました。

このタイプの心拍数計だと、胸部にベルトを着けなくて済むので手間がかかりません。

また、ほとんど腕時計のような形をしている機種もありますので、普段は腕時計として使用し、ちょっと早めに歩く時など、日常生活のなかでちょっと「運動」をしてみようかな、というときにすぐに心拍数計として使用できます。

もちろん、ジムでのトレーニングの時にも使えます。これはかなり便利です。

 

「心拍数」が測定でき、「運動強度」の良い指標になることはもちろんですが、「運動」に対するモチベーションも上がります。また、機種によっては睡眠の状態がわかるものもあります。

ちなみに僕が使っているのは、エプソンの「PULSENSE PS-600C」です。

最大心拍数と運動強度

最大心拍数と運動強度の関係には、いくつかの種類があります。

具体的には、

  1. 220公式
  2. 180公式
  3. カルボーネン法

の3つです。

 

1. 220公式

最も有名な計算式が、220公式です。

220公式では、220から年齢を引いたものが、最大心拍数となります。

例えば、40歳の場合、220-40=180となり、最大心拍数は180となります。

 

そして、この最大心拍数の50%、60%、70%、80%、90%、100%を基準として、運動強度を決定します。

最大心拍数の50%~60%までは低強度、60%~70%は中強度、70%~100%は高強度となります。

なお、65%-75%-90%のように刻む考え方の人もいます。

 

2. 180公式

「マフェトン理論」とも呼ばれる方式です。

180から年齢を引き、これを心拍数の上限とする方法です。

なお、下限は、上限-10となります。

 

さらに、

  • かなりトレーニングをしている人だと、+5
  • そこそこトレーニングをしており、体調が良い場合は、+0
  • あまり体調が良くない場合は、-5
  • 体調が良くない場合は、-10

とします。

 

例えば、40歳の場合、180-40=140となり、上限が140となります。

下限は140-10=130となります。

つまり、130~140の心拍数で運動するということになります。

 

さらに、

  • かなりトレーニングをしている人だと、+5なので、135~145
  • そこそこトレーニングをしており、体調が良い場合は、+0なので、130~140
  • あまり体調が良くない場合は、-5なので、125~135
  • 体調が良くない場合は、-10なので、120~130

となります。

 

3. カルボーネン法

カルボーネン法には、安静時心拍数を使用します。

50%の強度であれば、((220-年齢)-(安静時心拍数))×50%+(安静時心拍数)となります。

例えば、40歳で、安静時心拍数が60であれば、50%の心拍数は、((220-40)-60)×50%+60=120となります。

 

220公式や180公式と比較し、安静時心拍数が考慮されている分、個人の状況を反映する方法と言えますが、安静時心拍数がわかりづらいという欠点があります。

また、あまり運動の経験がない人の場合、安静時心拍数が高いことが多いため、やや正確性に欠ける可能性があります。

5つの運動強度

次はそれぞれの運動強度について詳しくご紹介します。

運動は、一般に、3つの運動強度に分けられます。

3つとは、「低強度」、「中強度」、「高強度」です。

 

エメラルド整形外科疼痛クリニックでは個人的意見として、「高強度」を「高強度」と「高高強度」にわけ、さらに強い運動を「最高強度」とし、5つに分けています。

ちなみに、運動強度の目安である「ゾーン」にも合わせています。

また、多くの方は、「走る」ことがトレーニングのメインとなると思ますので、「走り方」ともあわせてご紹介します。

 

①低強度

心拍数が、最大心拍数の50~60%です。

「走り方」では、「ウォーキング」が相当します。

 

「ゾーン1」の運動です。

主な効果は、運動不足解消、体力の回復です。

脂肪がエネルギー源として使用されます。脳由来神経栄養因子(BDNF)やセロトニンが分泌されます。

 

日常生活でも、少し負荷のある活動をすると、すぐこの領域に達します。

ですから、運動というよりは、少し活動的な日常生活の範囲といえます。

トレーニングというよりは、以降のトレーニングの準備段階といったところです。

 

②中強度

心拍数が、最大心拍数の60~70%です。

「走り方」では、「ジョギング」が相当します。

 

「ゾーン2」の運動です。

主な効果は、持久力向上、脂肪燃焼です。

 

脂肪と糖質がエネルギー源として使用されます。

血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF-2)も分泌されるため、末梢血管が新生します。

また、脳内では、これらの増殖因子により、ニューロンの連結・新生が加速します。

心臓から、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)が分泌され、エンドルフィンやエンドカンナビノイドも分泌されるため、爽快な気分となります。

筋肉内の毛細血管の密度が増え、筋肉内のミトコンドリアが増えるため、エネルギーを生み出す効率が上昇します。

 

最大心拍数の60~70%で心臓の1回拍出量は最大となるため、この領域でのトレーニングは心臓の拍出量を増加する効果があります。

 

以上より、この領域は、ダイエットや健康増進が目的の場合、体の負担があまりなく、効果もしっかりあることから、「最もお勧め」の運動です。

 

③高強度

心拍数が、最大心拍数の70~80%です。

「走り方」では、「ランニング」が相当します。

 

「ゾーン3」の運動です。

主な効果は、有酸素運動能力の向上です。

 

心肺機能が向上し、脂肪の燃焼効率が上がります。

また、内分泌系の機能も向上します。

この領域での運動により、後述の「乳酸性作業閾値(LT)」や「無酸素性作業閾値(AT)」を高めることができます。

 

この運動強度のトレーニングを続けると、心肺機能が向上するため、心拍数が下がってきます。

フルマラソンは、「完走」が目的なのであれば、この領域のトレーニングで充分といわれています。

 

④「高高強度」の運動

心拍数が、最大心拍数の80~90%です。

「走り方」では、「ランニング」が相当します。

 

「ゾーン4」の運動です。

主な効果は、運動能力の向上です。

 

長距離をさらに速いペースで走るための持久力を養います。

最大酸素摂取量が増大し、筋肉内の毛細血管の密度がさらに高まります。

また、速筋の割合が増え、より速いスピードでの運動がしやすくなります。

 

この領域になると有酸素運動に加えて、無酸素運動も入ってきます。

無酸素運動は、名前のとおり、酸素を使わない運動です。

また、乳酸が体に溜まりはじめます。

この点を「乳酸性作業閾値(LT)」や「無酸素性作業閾値(AT)」といい、血中の乳酸値は4mmol/Lを超えると、急激に乳酸が溜まってきます。

 

なお、無酸素運動の割合が増えると、「運動がかなり苦しく」なってきます。

フルマラソンでは、完走ではなく、「タイム」を縮めて、サブ4やサブ3を目指すトレーニングです。

 

⑤「最高強度」の運動

心拍数が、最大心拍数の90~100%です。

「走り方」では、「ダッシュ」が相当します。

 

「ゾーン5」の運動です。

主な効果は、瞬発力の向上です。

 

無酸素運動ですので、運動はかなり苦しく、ごく短時間しか継続できません。

無酸素運動になると、下垂体から成長ホルモンが放出されます。

成長ホルモンは、通称、「若返りホルモン」とも呼ばれ、強力に体の成長・修復をする作用があります。

エアロバイクでのトレーニングに、30秒間のダッシュを1回するだけで、成長ホルモンが6倍放出された、という報告もあります。

 

「最高強度」でのトレーニングにより、高強度でトレーニングしたあとの回復が速くなります。

トップスピードへの加速も速くなります。

 

筋肉内に溜まった乳酸への耐性が高まり、除去能力も向上します。

エネルギー産生能力も高まり、グリコーゲンを蓄積する能力も向上します。

そして精神的にも強くなります。

 

このように「最高強度」の運動は「良いことづくめ」ですが、反面、体への負担も大きいため、オーバーワークになりすぎないよう注意してください。

目安としては、週2回までです。

 

多くの方であれば、ここまでのトレーニングは必要ないかもしれません。

フルマラソンであれば、完走やタイムはもちろんのこと、「高い順位」を目標にする方が行うトレーニングです。

 

これまでの運動強度、心拍数、ゾーン、効果、走り方を表にしてみました。

「適切」な運動頻度・内容

「適切」な運動頻度や内容は、個人により大きく異なります。

①運動経験のある人

②運動経験のあまりない人

③高齢者(60歳以上)の3つに分けて記載します。

 

①運動経験のある人

理想は、週6回、1回45~60分の有酸素運動です。

さらに、6日のうちの4日は「中強度」の有酸素運動、2回は「高強度」の有酸素運動とします。

筋力トレーニングは、「高強度」の有酸素運動と同じ日に行うようにします。

 

また、「高強度」の運動は、連続して行うことはお勧めしません。

「高強度」→「中強度」→「中強度」→「強強度」→「中強度」→「中強度」→「高強度」のようなペースをお勧めします。

もちろん、これはあくまで目安です。

 

②運動経験のあまりない人

まずは、ウォーキング(低強度に該当)から始めましょう。

1歩を80cmとすると、10000歩で8kmとなりますので、まずは1日10000歩を目指してください。

 

『なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?』の著者である青栁幸利先生は、自身の研究である「中之条研究」で、「8000歩の早歩き」をすると、だいだい20分間、中程度の運動をしたことに相当する、と発表しておられます。

 

「8000歩」はひとつの目安ですが、これは「ある程度ご高齢の方」に当てはまる法則だと思いますので、年齢が若い方は、「10000歩」をお勧めします。

もっというと、年齢にもよりますが、「ある程度の早歩き」では心拍数はあまり上がらず、最大心拍数の50~60%止まりだと思います。つまり、「低強度」の運動・「ゾーン1」となります。

 

ですから、ある程度、この領域の運動を継続された後は、「中強度」の運動・「ゾーン2」の「ジョギング」に上げることをお勧めします。

 

③高齢者(60歳以上)

高齢者でも、運動のメインは有酸素運動と、筋力トレーニングです。

有酸素運動で心肺機能を向上させ、筋力トレーニングで筋肉や骨を強く丈夫にします。

もちろん、有酸素運度でも筋肉や骨に効果がありますが、筋力トレーニングによる成長ホルモンの分泌は魅力的です。

 

また、これは非常に大切なことですが、特に高齢者の場合は「楽しく」・「無理をしない範囲」で運動をすることが良いと思います。「楽しくなく」・「つらい」運動であれば、「こころ」にも「身体」にも良くないからです。

その意味でも、高齢者には、ぜひとも心拍数計を使用することをおすすめします。心拍数計が「無理をしているかどうか」のバロメーターになるからです。

 

それでは、運動の内容についてです。

まず、運動の頻度は週に6~7日の運動が望ましいです。

つまり、ほぼ毎日となります。

有酸素運動については、週に4日は、最大心拍数の50~60%のゾーン1で、ウォーキングを30~60分間。

週に2日は、最大心拍数の60~70%のゾーン2で、軽めのジョギングを20~30分間。

筋力トレーニングについては、週に2日は、ある程度の負荷で、10回~12回を1セットとし、3セット。

これらのほかに、週に2日は、太極拳、ヨガ、軽いテニス、軽いエアロビクスなどを30分間することをお勧めします。