骨粗鬆症薬による顎骨壊死と抜歯の対応

顎骨壊死について

顎骨壊死(MRONJ)は、骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート薬デノスマブ(プラリア🄬)を使用中に、顎骨が壊死する疾患のことであり、2003年に初めて報告されました。
なお、ポジショニングペーパーでは、ビスホスホネート薬デノスマブ(プラリア🄬)をあわせてARA(antiresorptive agent)と標記されています。
また、新薬であるロモソズマブ(イベニティ🄬)も、報告はかなり少ないですが顎骨壊死が発生する可能性があることが報告されています。

顎骨壊死に対する日本で対応の変遷

顎骨壊死に対する日本の対応についてご紹介します。
・2010年、最初のポジショニングペーパーが刊行
・2012年、改訂追補版が出版
・2016年、日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会、日本歯科放射線学会、日本歯周病学会、日本口腔外科学会、日本臨床口腔病理学会の6学会の顎骨壊死検討委員会による統一見解として改訂版が刊行、2017年に出版
・2018年、厚生労働省が、骨吸収抑制薬に関連する顎壊死・顎骨骨髄炎(重篤副作用疾患別対応マニュアル)改訂版を発表
・2023年、日本口腔外科学会、日本骨粗鬆症学会、日本病院薬剤師会、日本歯科放射線学会、日本臨床口腔病理学会、日本骨代謝学会が、「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」を発表

顎骨壊死に対する最新の指針の内容

現在、顎骨壊死に対して最も効力のある内容は、2023年に発表された「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」です。
そのため、医師のみならず歯の治療に携わる歯科医も、この最新版のポジショニングペーパーを熟知して治療にあたる必要性があると言えます。

抜歯に対して推奨される対応

抜歯の際には、休薬した方がよいのか?

顎骨壊死が臨床上問題となる場面は、骨吸収抑制効果がある骨粗鬆症薬であるビスホスホネート、デノスマブ、ロモソズマブを使用中の患者様が、歯科で抜歯治療を予定している場合です。
具体的には、
・抜歯の際には、上記の薬を休薬した方がよいのか?
ということです。

いえ、抜歯の際に休薬する必要はありません!

実は、この件に関しては、既に明確な結論が出ています。
具体的には、
・最新版のポジショニングペーパーでは、「原則として抜歯時にARAを休薬しないことを提案する」
と明記されているからです。

ポジショニングペーパーは、医師や歯科医が顎骨壊死に対して治療・対処をするうえで、最も根拠とするべき指針です。
そのため、上記の内容がポジショニングペーパーに明記されている以上、
・「抜歯の際にはARAを休薬した方がよい」という考えは適切ではない
という結論になります。

おそらく、「抜歯の際にARAを休薬しないことを提案する」という内容を知らない歯科医が多い

しかし、現実には、エメラルド整形外科疼痛クリニックには、毎週複数回、歯科医から「抜歯をするのでARAを休薬してほしい」という問い合わせが来ています。
そのため、エメラルド整形外科疼痛クリニックでは、
・患者様に「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」の記載箇所を実際にお見せし、抜歯の際にARAを休薬するエビデンスがないため、休薬しないことを勧める
・歯科医から紹介状がある場合には、「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」では抜歯に際してARAを休薬しないことが提案されていることを説明した上で、歯科医サイドと患者様で再度相談することを勧めるという返答をする

という対応をしています。

そのほかの重要な記載

「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」には、上記のほかにも重要な内容が記載されていますので、列挙します。

・「デノスマブ投与中止後に骨密度が急速に減少し、骨代謝マーカーが急激に上昇することが示されており、デノスマブ中止または長期延期後に椎骨骨折が増加する可能性が示されている(Lyu H et al. Ann Intern Med. 2020など4編が引用)。これらから、デノスマブ製剤は中止しないことが望ましいと考えらえれている。」(15-16ぺージ)
・「抜歯を行う際の休薬が顎骨壊死(MRONJ)発症の予防に有効であるとする十分なエビデンスが現時点では得られていない」(16ぺージ)
・「現時点では低用量ARA投与中の患者にインプラント埋入手術を行ってはならないとする根拠はない」(16ぺージ)
・「低用量ARAに加え、糖尿病や自己免疫疾患、人工透析中の患者など、MRONJのリスク因子を有している場合は、決して無理な治療計画を立てるべきではなく、各々の症例についてインプラント以外の代替療法を検討すべきである」(16ぺージ)・

「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」

ご希望の方は、日本口腔外科学会のサイトから「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジショニングペーパー2023」のPDFをダウンロードできますので、ご覧ください。


エメラルド整形外科疼痛クリニック

札幌市北区で麻生駅に近接し、痛みに対して積極的に治療を施行(電話:011-738-0011)
・治療方針:「両極の治療」
・治療方針の解説:全国初の試みである『モデル症例報告』を通じて、わかりやすく詳細に解説
・特徴:多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・リハビリテーション:理学療法士は担当制で、2単位40分で実施
骨粗鬆症『骨粗鬆症打開プロジェクト』を展開するなど、積極的に治療
・院長の書籍:『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』

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