労働災害について

労働災害(労災)の対応で、多くのトラブルが発生しています

まず、単刀直入にクリニックの現状をお伝えします。
それは、
「労働災害となられた方や勤務している会社の方が、労働災害についても知識・認識が誤っている」ため、
「対応に時間がかかることが多い」だけでなく、
「googleなどのクチコミに、完全に間違った認識に基づく誹謗中傷のコメントをすることが相次いでいる」
ということです。

本来、労働災害については、各種法律で厳密に定められており、会社はもちろんのこと、実際に勤務している労働者が予め知っておくべき事項ですが、現実的には、適切な知識がなく自分勝手な解釈をしている会社・労働者が一定数いることから、このような状態となっています。

労働災害(労災)とは

労働災害とは、
業務通勤が原因で、
労働者(正規職員、非常勤職員、パート職員など労務した全ての人員が該当)
負傷(けが)したり、病気になったり、亡くなったりすることをいいます。

ここで重要なことは、
・「通勤」中のケガは労働災害に該当する
・パート職員にも労働災害が該当する

ということです。

しかし、実際の臨床現場では、会社側から「パート職員は労働災害には該当しないから、健康保険で治療をしなさい」などと説明されて来院される方が一定数おられます。
しかし、これは後述する「労災かくし」であり、違法行為であり犯罪に該当します。

労災保険

労災保険とは、労働災害になった場合に、労働者本人や労働者の家族に対して、国が保険給付を行う制度のことです。
そして、労災保険は、従業員を1人でも雇用している事業主は加入することが義務付けられています(農林水産業の一部の事業のみ任意加入)。

また、正規職員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員、日雇い労働者の方も、労災保険の加入対象となります。
さらに、労災保険には年齢制限もありません。
そのため、未成年でも65歳以上の高齢者でも、労働者である以上、労災保険の対象者となります。

労災保険は、事業主が全額負担

労災保険は、事業主が全額を負担することになっているため、労働者が保険料を負担するようなことはありません。

事業主が労働災害に未加入でも、労災保険は使用可能

事業主が労災保険に加入していなかった場合や、労災保険料を滞納している場合であっても、労災保険は法律で加入が義務付けられているものであり、労働者には全く落ち度がないため、労災保険を使用することができます。

個人事業主や経営者は、労災保険の適応外

労災保険は、基本的に労働者のためのものです。
そのため、基本的には、個人事業主や経営者は労災保険の対象とはなりません
しかし、特例はあります。
それが、労災保険の特別加入制度などですが、詳細についてはここでは割愛します。

労働災害に健康保険は使えない!

労働災害は、そもそも労働や業務に由来するケガ・病気であり、そのための費用を事業主が負担しています。
事業に由来するものである以上、事業とは全く関係のない国民の税金などで負担するべきではないため、労働災害を健康保険で治療することは禁止されています(一部の個人事業主は除く)。

労働災害の治療のおおまかな流れ

労働災害の治療のおおまかな流れをお伝えします。
・労働災害が発生した場合、労働者の方は、速やかに事業主や上司に、その旨を伝えます
・治療や診察が必要な状態であれば、医療機関(可能であれば労災指定病院)を受診します
・医療機関を受診し、医師の診察を受けたあと、必要であれば治療が開始になります
・会社は「遅滞なく」、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出します
・治療により治癒、あるいはこれ以上あまり改善が見込めない状態になった時、治療は終了となります

労働災害かどうかは判定できるのは、労働基準監督署のみ

ここで非常に大切なことをお伝えします。
それは、労働災害かどうかを判定できるのは、労働基準監督署のみであるということです。
労働状況・労働条件・労働環境など、多岐にわたる要素を労働基準監督署が詳細に検討したうえで、労働災害にが該当するかどうかを判定します。
つまり、労働者本人・会社・医師には、労働災害に該当するかどうかを判断する権限は、全くありません。

そのため、労働災害かどうか疑わしい場合には、まずは労働災害として医療機関を受診することが規則となっています。
そのうえで、
・労働基準監督署が労働災害と判定した場合は、そのまま労働災害として治療を続ける
・労働基準監督署が労働災害と判定しなかった場合は、過去に遡って健康保険で治療を行う
ことになっています。

しかし、実際には会社側が勝手に判断することが多い

しかしながら、会社側が「これは労働災害には該当しない」などと勝手に判断し、労働災害ではなく、保険診療で診察や治療をすることを強く要求してくることが、多々あります。
前述のように、労働災害かどうか疑わしい場合には、まずは労働災害として医療機関を受診することが規則ですので、会社側の対応は完全に誤りです。

ほかに、会社側が、「過去に同じような状況では労働災害にならなかったから、労働災害として申請する必要はない」と言うことがありますが、状況がそれぞれ異なるため今回は労働災害に該当する可能性があり、さらに、労働災害かどうか疑わしい場合には、まずは労働災害として医療機関を受診することが規則ですので、やはり会社側の対応は誤りです。

会社側が、「パート職員だから労働災害にはならない」と言い張ることもよくありますが、そもそも、パート職員をはじめとして、ほぼ全ての労働者に労働災害は適応されることが法律で定められており、問題外です。

労災かくし

厚生労働省のホームページには、「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、(1)故意に提出しないこと、(2)虚偽の内容を記載して提出すること、と記載されています。

また、労働災害は、
・労災保険で治療すること
・健康保険で治療することできないこと
が法律で定められているにももかかわらず、労働災害であることを故意に隠して健康保険で治療を行うことも、「労災かくし」となります。

「労災かくし」は犯罪

以上のように「労災かくし」は明らかに不適切な行為であり、犯罪に該当します(労働安全衛生法第120条)。

具体例では、2025年2月に、作業員が業務中に指を骨折する重傷を負い、3か月以上休業する労働災害は発生したにもかかわらず、担当する労働基準監督に報告しなかった労働安全衛生法違反(労災かくし)の疑いで、社長2名と現場責任者1名が書類送検されています。

また、労働災害であることをなかったことにして保険診療で治療を行うことを強く要求する方が相当数おられますが、その場合、クリニックが「労災かくし」に加担することになりますので、クリニックでは一切そのような対応はお断りしております。

まとめ

以上をまとめますと、労働災害の疑いがある場合、
・会社にその旨を説明し、
・会社から労働災害疑いであることを認定されたうえで、
・医療関係を受診し、診察や治療を受け、
・会社は、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出する
という対応が、適切ということになります。


クリニックでの労働災害の対応

エメラルド整形外科疼痛クリニックは、労災指定病院となっていますので、労働災害の治療を行っています。
また、労働災害による手術が必要な方に尽きましては、当クリニックより手術が可能な医療機関をご紹介しています。

公務災害について

なお、公務災害(公務員の方が、公務中あるいは通勤中に労働災害となった場合)については、当院は対応医療機関ではありません。
そのため、公務災害については、いったん自費100%でご本人に治療費をお支払いいただき、ご自身で該当期間に公務災害について申請していただき全額を返金してもらう、という対応になりますので、予めご了承ください。