最新スポーツ医学から続々と新しい叡智が得られている
筋肉トレーニングについては、これまでは方法論が確立していないため、昔ながらの方法や個人の経験論が主でした。
しかし、最近は、スポーツ医学が大いに発展し、エビデンスに基づいた驚きの事実が続々と明らかにされています。
それらの中から、エッセンスとなる部分をご紹介します。
それぞれの内容の詳しい解説は、今後出版する予定の『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~改訂版(仮名)』に掲載する予定です。
I. 筋肉量を増やす方法と筋力量を増やす方法は、実は別
最新スポーツ医学の成果の中でも最も驚くべき内容が、
・筋肉量を増やす方法と筋力量を増やす方法は、実は別であった
という事実です。
筋肉量と筋力量というと、一見同じように感じますが、筋肉量は文字通り筋肉の量であり、腕が太いとか足が太いとか、筋肉自体が多いことを意味します。
筋力量は、文字通り筋力の量であり、筋肉が最大でどのくらいの力を発揮できるかを意味します。
そのため、筋肉が隆々としていて一見強そうな人が、実は非力であるという状況が起こりえることになります。
筋肉量を増やす方法
最新の研究では、筋肉量を増やすには筋肉への総負荷量を増やすことが重要であることが証明されました。
総負荷量とは、筋トレに使う負荷の重さと回数を掛けたものです。
そしてここが最も大切ですが、
・低い負荷で多くの回数の運動をした場合の総負荷量
・高い負荷で少ない回数の運動をした場合の総負荷量
が同じであれば、筋肉量の増加は同じという驚きの事実が判明しました。
つまり、あまり辛くない程度の重さでの筋肉トレーニングであったとしても、回数を多くすれば重い負荷で辛い思いをして筋力トレーニングをした場合と同じ効果が得られるめ、筋肉量を増やすのであれば、無理に重い負荷で筋肉トレーニングをする必要はないということになります。
休憩時間については、あまり負荷をかけない場合には、1~2分間の休憩時間で十分ですが、強い負荷をかけた場合には2分間以上の休憩時間が理想的です。
1回の運動の所要時間は8秒以内であれば、速くても遅くても差はありません。
運動の頻度は、週3回でも週6回でも、総負荷量が同じであれば差はないことが分かっています。
筋力量を増やす方法
筋力量を増やす方法は、前述の筋肉量を増やす方法とは異なります。
まず、筋力を増やすには、強い負荷が必須です。
低い負荷ではいくら回数を多くしたところで、筋力は増強しないことが証明されました。
1回の運動の所要時間については、筋肉量を増やすには8秒以内でしたが、筋力量を増やすには6秒以内が理想的です。
運動の頻度は、筋肉を増やす時と同様で、週3回でも週6回でも1週間の総負荷が同じであれば効果は同じです。
II. 厚生労働省の指針に基づいた筋肉トレーニングの「適切な量」
最近の研究では、筋肉トレーニングの「適切な量」についても判明しています。
筋肉トレーニング自体はもちろん健康にとって有益ですが、
・週当たりの実施時間が長くなり過ぎると、逆に健康に有害となる
ことがわかりました。
表のように、1週間に約40分の筋肉トレーニングが総死亡リスクを最も低下させますが、これ以上の量になると次第に健康に対する有益な効果は低下し、1週間に約140分を超えると、むしろ総死亡リスクが上昇し有害となります。

筋力トレーニングと総死亡及び心血管疾患発症リスクの関係
(厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』より抜粋)
(Momma H et al. Br J Sports Med. 2022)
III. 有酸素運動と筋肉トレーニングはどちらが重要か?
ジョギングやランニングなどの有酸素運動と筋肉トレーニングは、どちらの方が健康にとって有益なのでしょうか?
これまで、この問いに対する答えは、かなり困難でした。
それは、ジョギングやランニングが好きな方は「当然、有酸素運動の方が良い」と考えており、反対に、筋肉トレーニングが好きな方は「筋肉の大きさが大事」と考えているからです。
しかし、最近のスポーツ医学が、この長年の解決しない問いに答えを出してくれました。
有酸素運動と筋肉トレーニングのどちらも、健康にとって有益
最近の研究では、
・有酸素運動を行うことで、総死亡の相対リスクは低下する
・筋肉トレーニングを行うことで、総死亡の相対リスクは低下する
ということが証明されました。
つまり、有酸素運動と筋肉トレーニングのどちらも健康にとって有益だということです。
しかし、この報告がもっと重要なことを証明しました。
それは、
・有酸素運動と筋肉トレーニングの両方を行った場合に、総死亡の相対リスクは最も低下する
と言うことです。
つまり、
・有酸素運動と筋肉トレーニングのどちらも健康に有効だが、両方行うことが最も有益
だということです。
この結果をもとに、『エメラルド式骨粗鬆症・生活習慣病克服実践プログラム』では、有酸素運動と筋肉トレーニングの両方を行うことを推奨しています。

筋肉トレーニングと総死亡及び心血管疾患発症リスクの関係
(厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』より抜粋)
(Momma H et al. Br J Sports Med. 2022)