骨粗鬆症③椎体骨折のある骨折の危険性の高い骨粗鬆症、虚血性心疾患・脳血管障害なし

症例提示

年齢・性別:75歳、女性
主訴:1週間前から背中痛が続いている
現病歴:1週間まえに家の整理をしているときに、軽い荷物を移動したあとから背部痛が出現し、良くならない。
既往歴:糖尿病で薬を内服中 胸椎圧迫骨折の既往あり

状況からの医学的判断

軽い荷物を持った後から背部痛が出現しているため、脊椎骨折や急性腰痛症(ぎっくり腰)の可能性があります。
急性腰痛症(ぎっくり腰)は1週間以内で自然軽快することもありますが、1週間以上続くこともあるので、痛みの継続期間だけで否定することはできません。
しかし、年齢・性別からは、脊椎骨折の可能性の方が高いと判断されます。

下肢のしびれなどはないようなので、脊椎破裂骨折(下肢のしびれ・痛み・筋力低下などの神経症状が発生することがある)よりは、脊椎圧迫骨折(下肢の神経症状は発生しない)の可能性が高いと思われます。

診断計画

レントゲンで骨折の有無を評価することは必須です。
痛みがある背部(胸椎)のほかに、腰椎にも骨折がある可能性があるため、胸椎と腰椎のレントゲン撮影を行います。
レントゲンで新しい骨折がなかったとしても、MRI検査で骨折が判明することがあります。
また、レントゲンで骨折があっても、新しい骨折か、古い骨折かが判断困難な場合があります。
そのようなときでもMRI検査であれば、新しいあるいは比較的最近の骨折かどうか判断できるため、必要に応じてMRI検査を行います。

診断経過

レントゲン検査で、第11胸椎と第12胸椎に圧迫骨折が確認されました。
MRI検査では、第11胸椎はT1強調画像でhigh(白い)、STIR画像でlow(黒い)であり、古い骨折の診断です。
第12胸椎はT1強調画像で一様にlow(黒い)、STIR画像で一様にhigh(白い)であり、新しい骨折の診断となりました。以上より、新規胸椎骨折があり、脆弱性骨折であるため骨粗鬆症の診断となります。

骨密度検査では、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は55%、大腿骨頚部の%YAM値は59%、total hipの%YAM値は65%であり、骨密度は上記の3つの値のなかで最も低い値(55%)で評価をすることが規定されており、%YAM値が60%を下回っているため、通常の骨粗鬆症ではなく「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」の診断となりました。

診断名の確定

以上より、第11胸椎陳旧性圧迫骨折、第12胸椎圧迫骨折、骨折の危険性の高い骨粗鬆症が診断名となります。

治療方針

・第12胸椎の圧迫骨折は、骨が治癒せずにつぶれてしまう(圧壊といいます)可能性があるためコルセットを作成し、3か月間装着することが強く勧める。
・コルセットは、ダーメンコルセットを作成する。
・痛みに対しては、カロナール🄬とノイロトロピン🄬を処方する。希望があれば、ロキソニン🄬を追加する。
・転倒予防などを目的に、運動器リハビリテーションを1回/週、施行する。
・骨粗鬆症の治療のために採血検査(血清Ca値、腎機能、骨代謝マーカー、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値など)を行う。

治療経過

・コルセットが完成し、装着後6週間で痛みが消失したため、カロナール🄬とノイロトロピン🄬の処方は終了した。
・運動器リハビリテーションは8週間施行した。
・ダーメンコルセットは、3か月経過後に、徐々に装着時間を短縮し、2週間で完全離脱した。
・採血の結果、血清Ca値、腎機能、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは高回転型(骨形成正常、骨吸収亢進)であり、「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」であるため、テリパラチド(フォルテオ🄬)やロモソズマブ(イベニティ🄬)が候補治療薬となり、過去1年以内に虚血性心疾患や脳血管障害の既往がなく、骨密度が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折があるためロモソズマブ(イベニティ🄬)の適応を満たすため、テリパラチド(フォルテオ🄬)とロモソズマブ(イベニティ🄬)の利点・欠点を説明の上、ロモソズマブ(イベニティ🄬)を開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

・札幌市北区麻生に開院している整形外科クリニック(電話:011-738-0011)
・治療方針は、「両極の治療」
・特徴は、多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・2単位40分・担当制のリハビリテーションを施行
骨粗鬆症を積極的に治療
・院長は『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』を出版