骨粗鬆症⑥大腿骨転子部骨折のある骨粗鬆症

症例提示

年齢・性別:85歳、男性
主訴:左股関節が痛くて歩けない
現病歴:本日、家の中で段差につまづいて転倒し、直後から左股関節周囲の痛みが出現し、歩行が極めて困難なため、家族に付き添われ、なんとか来院した。
既往歴:前立腺肥大症で治療中

状況からの医学的判断

屋内で転倒した後に左股関節周囲に強い痛みが出現し歩行困難となっているため、大腿骨近位部骨折(大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折の総称)の可能性がかなり高い。
大腿骨近位部骨折であれば、早急に手術が可能な医療機関に転医・入院することが望ましいため、クリニックとしても早急な対応が望ましい。
大腿骨近位部骨折を発症していても、転位(ズレ)がない場合にはレントゲン撮影では診断ができない。

大腿骨近位部骨折は、たとえ転位(ズレ)がない場合であっても、早期に手術をすることが、その後の生命予後に非常に重要となるため、骨折の可能性が高いと判断される場合には、レントゲン撮影で異常がなくとも積極的にMRI撮影を行い、早急な診断を心がける。

大腿骨近位部骨折が脆弱性骨折である場合には骨粗鬆症の診断が確定しますが、まずは骨折の診断と入院・手術が可能な医療機関への早急な搬送を目指し、手術後に状況が落ち着いてから骨密度や採血などの精査を、入院先の医療機関あるいは退院後に当クリニックで行うこととする。

診断計画

レントゲン撮影は、診断に必須です。
レントゲン撮影で骨折がなかった場合でも大腿骨近位部骨折の可能性があるため、原則的にMRI検査を追加します。

診断経過

レントゲン撮影では左大腿骨の転子部で骨折があり、転位(ズレ)がありました。
恥骨などには明らかな骨折はありませんでした。

診断名の確定

以上より、左大腿骨転子部骨折と骨粗鬆症が確定診断となります。

治療方針

・大腿骨転子部骨折は転位がなくとも早急に手術を行い、早期の離床・歩行訓練を開始することが生命予後の点からも強く勧められる。
・本症例の場合は転位があるため手術が極めて望ましく、大きな病気がないことから体力的にも手術は可能と判断され、早急な入院施設への搬入が望ましい。
・院長自ら、提携医療機関に電話し、担当医と電話で患者様の治療の受け入れを依頼する(いわゆるDr-to-Drの電話)。
・エメラルド整形外科疼痛クリニックは、札幌市に10ある区のうち、中央区、西区、東区、手稲区、豊平区という広範囲に5つの区にわたる提携医療機関があり、またこれら以外にも頻回に受け入れを依頼している病院があるため、それらの病院に連絡し、相談する。

・患者様の受け入れが決定した場合、すぐに診療情報提供書(画像はCD-Rに保存)を作成する。
・患者様は、速やかに受け入れていただいた医療機関に受診していただく。

・大腿骨転子部骨折の場合、退院後もリハビリテーションをある程度の期間継続することが望ましい。
・その際には、そのまま受け入れ医療機関でリハビリテーションを継続する場合と、当クリニックでリハビリテーションを施行する2通りの状況があるが、当クリニックでリハビリテーションを継続し、受け入れ医療機関には定期的に外来受診をする場合がほとんどである。

治療経過

・受け入れ医療機関で速やかに手術を施行し、経過は良好で1本杖歩行で4週間後に自宅退院となった。
・受け入れ医療機関には、月1回の頻度で外来通院し、リハビリテーションは当クリニックで3回/週の頻度で施行し、3か月で終了した。
・当クリニックで、骨密度検査と骨粗鬆症用採血検査を施行し、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は65%、右大腿骨頚部の%YAM値は63%、total hipの%YAM値は65%だった。

骨粗鬆症の治療薬の選択

・採血の結果、血清Ca値、腎機能、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは高回転型(骨形成正常、骨吸収亢進)であった。
・過去1年以内に虚血性心疾患や脳血管障害の既往がなく、骨密度が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折があるためロモソズマブ(イベニティ🄬)は使用可能となるが、患者様はデノスマブ(プラリア🄬)を希望したため、デノスマブ(プラリア🄬)とデノタスチュアブル🄬を開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

・札幌市北区麻生に開院している整形外科クリニック(電話:011-738-0011)
・治療方針は、「両極の治療」
・特徴は、多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・2単位40分・担当制のリハビリテーションを施行
骨粗鬆症を積極的に治療
・院長は『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』を出版