骨粗鬆症⑤上腕骨近位端骨折(MRIではじめて診断可能)のある骨粗鬆症

症例提示

年齢・性別:70歳、女性
主訴:右肩の痛み
現病歴:2日前、家の中で片付けをしている際に転倒し、右肩から床に落下した。その後、右肩を動かす際に痛みが続くため、受診。
既往歴:特になし

状況からの医学的判断

屋内で転倒した後に痛みが出現しており、外傷(ケガ)の可能性が高い状況です。
受傷機転からは、上腕骨近位端骨折、肩腱板断裂、肩鎖関節脱臼が想定されます。
上腕骨近位端骨折でも転位(ズレ)がない場合にはレントゲン撮影では診断がつかない場合があります。
また、肩腱板断裂はそもそもレントゲン撮影ではわからず、MRI撮影でなければ確定診断はできません。
上腕骨近位端骨折の場合には脆弱性骨折に該当するため、年齢・性別から骨粗鬆症が疑われる場合には、患者様にその旨を説明し、骨粗鬆症の精査の希望がある場合には骨密度検査を行うこととします。

診断計画

レントゲン撮影は、診断に必須です。
レントゲン撮影で骨折がなかった場合でも上腕骨近位端骨折は否定できず、また肩腱板断裂を評価するために、MRI検査の追加が望ましいです。

診断経過

レントゲン撮影では肩関節周囲に明らかな骨折はありませんでした。
MRI検査では、上腕骨頭がT1でlow、STIRでhighであり、転位のない上腕骨近位端骨折の診断となりました。
転位がないため手術の必要性は低く、保存的治療の適応です。
また、MRI検査の結果、腱板断裂はありませんでした。

上腕骨近位端骨折は脆弱性骨折であるため骨粗鬆症の疑いがあることを患者様に説明し、骨粗鬆症の精査の希望があったため、骨密度検査を施行しました。
骨密度検査では、腰椎の%YAM値(骨密度の評価のために重要な値で70%以下では骨粗鬆症の診断となる)は75%、大腿骨頚部の%YAM値は75%、total hipの%YAM値は73%でした。
骨密度は上記3値のなかで最も低い値で評価をするため、73%となり、70~79%の範囲にあり、さらに上腕骨近位端骨折という脆弱性骨折があるので、骨粗鬆症の診断基準を満たすため、骨粗鬆症の診断となります。

診断名の確定

以上より、右上腕骨近位端骨折と骨粗鬆症が診断名となります。

治療方針

・右上腕骨近位端骨折は転位がないため、手術ではなく保存的治療を選択し、三角巾固定を4週間継続。
・診断後2週後からリハビリテーションを開始し、随時、メニューを拡大する。
・痛みに対しては、ロキソニン🄬やノイロトロピン🄬を処方する。
・肩関節は痛みが強く出やすい部位であり、これらを使用しても痛みが強い場合には、自院でペインコントロール(漢方薬や西洋疼痛薬を使用)を開始する。
・骨粗鬆症の治療のために採血検査(血清Ca値、腎機能、骨代謝マーカー、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値など)を行う。

治療経過

・リハビリテーションを1回/週の頻度で施行し、6週間で終了した。
・ロキソニン🄬とノイロトロピン🄬では十分に痛みを改善できなかったため、漢方薬を開始し、これにより速やかに痛みは改善したため、4週間で終了した。

骨粗鬆症の治療薬の選択

・採血の結果、血清Ca値、腎機能、ビタミンD値、副甲状腺ホルモン値は正常であったが、骨代謝マーカーは高回転型(骨形成正常、骨吸収亢進)であった。
・70歳の女性であり、椎体骨折の抑制効果と大腿骨近位部骨折の抑制効果の両方を有するビスホスホネート薬であるアレンドロン酸(ボナロン🄬)、リセドロン酸(ベネット🄬)や、デノスマブ(プラリア🄬)が治療候補薬となり、患者様に上記を説明し、相談の上、デノスマブ(プラリア🄬)を開始した。
・デノスマブ(プラリア🄬)使用の際に推奨されているデノタスチュアブル🄬も同様に開始した。


補足事項

『モデル症例報告』は、代表的な疾患や患者様の代表的な状況を、検査内容、医師の判断内容、治療法などをわかりやすくモデル化することにより、「エメラルド整形外科疼痛クリニックの治療方針を知ってもらうため」に考案しました。
そのため、『モデル症例報告』の内容は、個々の患者様の実際の内容ではなく、同様の状況の患者様をモデル化した一般的な話です。

エメラルド整形外科疼痛クリニック

・札幌市北区麻生に開院している整形外科クリニック(電話:011-738-0011)
・治療方針は、「両極の治療」
・特徴は、多彩な独自の治療法漢方薬バイオフィードバックなど)
・2単位40分・担当制のリハビリテーションを施行
骨粗鬆症を積極的に治療
・院長は『骨粗鬆症治療の真実と7つの叡智®~超健康と長寿の秘訣~』を出版