成人の股関節痛に対する保存的治療

一般的な治療方針とその現状

整形外科の基本的な治療方針

成人の股関節痛の原因の多くは、臼蓋形成不全からの変形性関節症です。
そのほかの原因には、いわゆる変形性股関節症や、外傷後などがありますが、治療法は同じです。

股関節を含めた整形外科疾患の基本的な治療法は、
・まずは保存的治療を、ある程度の期間に行う
・それでも症状が強く日常生活に支障が強い場合に、手術的治療を行う
です。
例外は、大きな転位(ズレ)のある骨折や脱臼で、その場合には速やかに手術を行います。

股関節の治療の現状

しかし残念なことに、股関節については、整形外科の基本的な治療方針は必ずしも守られていません。
保存的治療として、まずは非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)などの痛み止めが処方されますが、リハビリテーションやほかの内服薬は使用せずに、あるいはごく少量を使用しただけで、手術を勧める病院・クリニックが多いようです。

股関節は、ほかの関節と比較して保存的治療が効きやすい

ここで大切なことがあります。
それは、股関節は、ほかの関節と比較して保存的治療が効きやすいということです。

股関節の保存的治療

股関節は保存的治療が効きやすい関節です。
治療法の詳細をご紹介します。

1. 各種の痛み止め

痛み止めは、文字どうり痛みを緩和する薬剤です。股関節痛に対しても頻回に使用されていますが、基本的には対症療法です。
非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)が有名ですが、胃などの消化器や腎臓、心臓、肝臓に悪影響がありますので、漫然と非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)を継続することは望ましくありません。
そのほかに、アセトアミノフェン(商品名:カロナール®)がありますが、こちらも対症療法ですが、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)よりは副作用が少ないです。

2. 運動器リハビリテーション

運動器リハビリテーションは、股関節痛に限らず、多くの疾患に対し保険適応となる治療法ですが、股関節の変性が強く、一般的な病院・クリニックでは手術をすぐに勧められるような場合も有効であることが多いです。
もちろん、運動器リハビリテーションだけで痛みがすっかり改善するということではなく、西洋の各種疼痛薬や漢方薬などを併用することで総合的に痛みが改善するということです。

そのため、エメラルド整形外科疼痛クリニックでは、股関節痛の方に対し、保存的治療の1つとして運動器リハビリテーションを推奨しています。

3. ノイロトロピン®

ノイロトロピン®は日本で開発された鎮痛剤で、50年以上も医療で使用され続けている薬剤です。
これほど長い期間にわたり継続されて使用されているにはそれなりの理由があります。
1つ目の理由は、各種の痛みに不思議なほど効果があるということです。
実際、変形性股関節症に対し、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)はあまり効果がない場合でも、ノイロトロピンが良く効いたということはかなり良くあります。
2つ目の理由は、大きな副作用がないことです。
非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)は、胃などの消化器、腎臓、心臓、肝臓に少なからず悪影響を及ぼしますが、ノイロトロピンはほとんど副作用がありません。
人工透析の方にも通常量で使用できるほど安全性の高い薬剤です。

ノイロトロピンは股関節痛にも有効であることが多い、かつ安全性が高いので、エメラルド整形外科疼痛クリニックでは第1選択薬として、ほぼ全員の方に使用しています。

4. デュロキセチン

デュロキセチン(商品名:サインバルタ®)は、西洋医学による疼痛薬の1つです。
デュロキセチンは、うつ病の薬でしたが、最近は、腰痛や変形性関節症に対しても保険適応になりました。
つまり、デュロキセチンが腰痛や変形性関節症に効くということは、国が認めた事実ということです。
実際、デュロキセチンは、ある程度、股関節の変性が強い方の場合でも有効なことがあります。

しかし、デュロキセチンは、眠気・めまい・吐き気・ふらつきなどの副作用が出現する恐れがあるので注意が必要ですが、西洋の疼痛薬の中では例外的に、車の運転が許可されている薬剤ですので、車を運転する方にも使用することができます。
なお、医療機関から、車を運転する方にプレガバリンやトラマール製剤が処方されたという話をよく聞きますが、これは「禁忌」ですので、ご注意ください。

5. トラムセット®

トラムセット®は西洋医学による疼痛薬の1つで、保険適応の病名は、慢性疼痛です。
慢性疼痛とは、ケガなどが通常治る期間(一般的には約3か月)が過ぎても痛みが続いている状態のことです。
反対にケガなどの痛みを急性疼痛といい、トラムセット®は適応ではありません。

トラムセット®の特徴は、トラマドール塩酸塩という疼痛薬と、鎮痛薬であるアセトアミノフェンの合剤であるということです。
合剤とすることでメリットがあることが報告されています。

トラムセット®は、実は股関節痛に良く効きます。
西洋の疼痛薬であるデュロキセチンやプレガバリン(商品名:リリカ®)やミロガバリンベシル酸塩(商品名:タリージェ®)と比較し、ワンランク上の効果という印象です。

そのため股関節痛にトラムセット®はおすすめなのですが、眠気・めまい・吐き気・ふらつきなどの副作用が出現する恐れがあるため、車の運転が禁止されています(禁忌)
そのため、車を運転する方にはトラムセット®は処方できません。

しかし、製薬メーカーや、ペインクリニック学会から、再三、禁忌であるため処方しない旨の注意喚起が行われているにもかかわらず、依然、多くの医療機関から、車を運転する方にプレガバリンやトラマール製剤が処方されています。

6. プレガバリンやミロガバリンベシル酸塩

プレガバリン(商品名:リリカ®)やミロガバリンベシル酸塩(商品名:タリージェ®)は西洋医学による疼痛薬です。
これら2つの薬は、腰痛、肩こりなど、何かにつけて処方する医師が増えていますが、神経障害性疼痛の薬であり、神経損傷に起因する痛みに対して使用することが適切です。
ちなみに変形性関節症に神経損傷は関係ない、と以前は考えられていました、現在では変性した軟骨などに神経が入り込んでいることが病理学的に示されており、その意味で変形性関節症に神経障害性疼痛は有効です。

これら2つの薬は、股関節痛にそれほど効く印象はありません。
また、トラムセット®と同じく、眠気・めまい・吐き気・ふらつきなどの副作用が出現する恐れがあるため、車の運転が禁止(禁忌)されており、車を運転する方にはトラムセット®は処方できません。

7. 漢方薬

東洋医学による薬である漢方薬は、股関節に良く効きます。
具体的には、二朮湯、麻杏薏甘湯、薏苡仁湯、治打撲一方の4つが特に良く効きます。
ブログ「整形外科専門医による「股関節の痛み」におすすめの4つの漢方薬による治療」で詳細に解説していますので、ご興味がある方はご覧ください。

整形外科専門医による「股関節の痛み」におすすめの4つの漢方薬による治療